(本コラム記事は、サンライズ出版社『埋木舎で培われた井伊直弼の茶の湯』より、著者・大久保治男氏の承諾を得て、その一部を抜粋・記載するものです。)
【直弼茶道の真髄(その1)より続き】
… 茶の湯といふもの。むつかしき事もなく。いと安き上にもしやすきハ、その手前にても。さるというほとの法とてもなく。器ハもとよりあるかまかせて。あながち好にもあらず、竹一ふしの蓋置に、三つ四つに崩れたる茶入の。きたなげなるとも事たり。心ひつをたた実ニ。和ニ。閑ニ。かの囲炉裏といふもののかたへに。したしきかぎりふたりみたり打ちかたらふ。 菅根の長き日春雨。釜のにえ音しづかなるに。忍ふにつとふ軒の玉水。ほとほとと声そへ。
… まづしき人の。おのづから詫たる室に。あるじの心至りたるこそ、まことによけれ。 …… 囲炉裏の座にてハ。あだなる事ハなくて。すべて心易く。重しも饗せねハ。実の友誼の交りをなし。己か身の行にも。心をしつかにして。よきたつぎなるそ。此道の本意なりける。心清き法師もたけき物部も。貴き極ミ。賤きかぎりまでも。心の楽ミ猶まさるものハあらじ哉。
柳和舎 宗観
(つづく)
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