(本コラム記事は、サンライズ出版社『埋木舎で培われた井伊直弼の茶の湯』より、著者・大久保治男氏の承諾を得て、その一部を抜粋・記載するものです。)
【直弼茶道の真髄(その4)より続き】
直弼の茶道はまさに禅宗的背景を有した精神主義を中心とする真の茶道であった。埋木舎の質素な茶室「澍露軒」の柱に掛けたる一首でもその心が看取されるのである。
茶の湯とてなにか求めんいさぎよさ 心の水をともにこそ汲め
何をかはふみもとむべきおのづから 道にかなへる道ぞ此のみち
この詠じられた和歌で直弼茶道の極意を銘じ、連日の禅の修行と相俟って直弼は茶道の蘊奥境地に達し、さらに「和敬清寂」の心境を静かに埋木舎、澍露軒において会得して行くのである。
直弼の茶道は茶室の装飾や器物の珍什などを重視する一般の骨董趣味や個人の財力を誇示するような茶道に反発し、茶道の真髄の心に迫ろうとした。茶席の順番も尊卑貴賤の格式等は問題とせず業の巧拙、時の主伴により別けたのである。茶室に出入りする者にはわけへだてをしないで左官屋・利八も賓客の一員に加えられていたし、武人、僧侶、医師、儒者、俳人、絵師等も招き、膝を交えて語り合ったのである。(おわり)
『埋木舎で培われた井伊直弼の茶の湯』(サンライズ出版)は、井伊直弼茶道・摂草庵流宗家の前田滴水氏と、埋木舎当主の大久保治男との共著です。本編の他にも埋木舎や井伊直弼の茶の湯に関する記事が多く掲載されています。詳細はAmazon等でご参照ください。

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